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【新・京都迷宮案内 思い出の赤いヤッケ 監督石川一郎】 [テレビドラマ]

 昨夜も仕事の切り上げが悪く、エクセルを開いてだらだらと数字を打ち込んでいた。時計が夜の八時を指していたので、何か面白い番組でもしてないかと思い、職場のテレビをつけた。「新・京都迷宮案内」が始まったところだった。この手のドラマはあまり見ない。低予算でつくりも雑な印象をいつまでも持っているからだ。しかし、最近の東映が手がけているこれらの作品は良くなってきていると思う。水谷豊主演の「相棒」シリーズも、大作ドラマよりも見ごたえがあると言ってもいい。
 先に昨夜見た「新・京都~」の感想を書く。
 あらすじは橋爪扮する京都日報社会部の杉浦が捨てられたタンスの中から一通の手紙を見つけるところから始まる。封も開けられていない古い封筒に興味を持った杉浦は、書かれてあった宛先と差出人の調査に乗り出す。宛名にある男性「三輪信一」の所在はなかなか捕まらなかったが差出人の「大崎珠子」の所在はすぐに掴めた。お寺に嫁いだ「珠子」に会い手紙を見せると、そんな手紙は知らないと答えた。益々興味を持った杉浦は「三浦信一」の所在も掴む。「三浦」は殺人を犯した罪で服役後、大阪大正区の工場に勤めていた。「三浦」は、手紙を受け取らなかった。自分の過去の過ちからか、その他に理由があるのか?杉浦は手紙を持ち帰ると、「珠子」が訊ねてきて手紙を返してくれと訴える~。
 この物語は、「珠子」が「三浦」に思いを寄せて出した一通の手紙を通して、過去の淡い思い出を思い起こさせる「おせっかい」な話である。2人の間にサスペンス的な事件性や夢のような展開もない。封筒の中には「三浦」に宛てたコンサートチケット一枚だけで、「三浦」はそのコンサートに行っていれば過ちを犯すことも無かっただろうと思い、「珠子」はお寺に嫁いで小遣い稼ぎの「貸し金」でセコセコやっている事もなかっただろうと振り返る話である。サブタイトルになっている「思い出の赤いヤッケ」の歌の存在によって、この物語は成立している。私は「よかった」と思う。テレビドラマだからと言って必ず突拍子も無い展開で奇跡を起こす必要はない。部屋の整理中に昔の写真を見つけて思い出に浸ることはよくあることだ。共感を持つ「仕舞っておきたい思い出」に脚色を加え、ドラマを通して視聴者に見せることは大変いい事だと思う。「珠子」役に秋野暢子が演じている。なかなかのはまり役ではないだろうか。脚本もよかったし、演出もよかった。少しのカットではあるが「三浦」の勤める大正区のロケーションもよかった。
 私が、いつもより思い入れて見てしまった理由がある。この作品は石川一郎監督である。東映作品が放映されると、急ぎ足で流れるテロップをいつも必死で目で追う。誰が監督で、誰が照明・録音・美術・進行・・・。当時共に仕事をした人の名前を見るとつい最後まで見てしまう。特に、当時一緒に駆け出しだった人たちが活躍しているとうれしくなる。石川監督はその中の一人である。石川監督は東映の契約監督である。私は演出部ではなかったので、詳しい仕組みは分からないが、当時から社員監督と契約監督がいた。私が勤めていた頃はバブル期であり、二年続けて演出部に正社員の助監督が入社してきた。そのうちの一人はすでに映画も監督しており、もう一人もしっかりとドラマを撮っている。石川監督にとって、すぐ下に正社員の助監督がいることは、大変厳しい立場であった。よい作品はどうしても社員が有利だからである。演出部にいる以上、当然映画を撮りたい。撮影所に映画の企画があっても参加できない場合だってある。それが、能力のよりも先に立場が優先されていことだって出てくるだろう。私は、社員監督が活躍しているのを見ながら、石川さんはどうしてるのだろうと、いつも心の隅で気になっていた。風の便りでテレビドラマの演出をした話は聞いたことがあった。そして昨日はじめて石川監督作品を見た。カット割や物語の構成、組み立てまで、何のストレスもなく見ることができたし、脚本の狙い通りしっかり撮れていた。もともとの脚本もよかったのだろう。監督の実力を測るとき何を見るかと言えば、話の良し悪し以前に、「ストレス」なく見ることができるのかどうかである。この「ストレス」とは、自分のリズムで物語が展開しているかどうかである。この「自分のリズム」とは、不思議と見るものが共通にもっている「リズム」である。なにかおかしいなと思ったとき、「カット割」や「台詞の間」が悪い場合が多い。例えば2人の会話のシーンを撮る時、引きで2人を撮り、途中でそれぞれのアップ画面が入ったりするが、アップを入れるタイミングが悪かったり、寄りの(アップの大きさ)構図がおかしかったりする場合がある。これは基本的なことであるが、それができない監督が意外と多い。不必要に交互にアップ画面を多用することなどよくあることだ。カメラマンとの息が合っていれば、回避できる要素でもあるが、やはり撮影現場では監督の技量が作品の完成度を大きく左右する。今回の作品を見て、撮影所が石川監督によせる信頼度は高いと思った。無駄なカット割りも無かったし、製作が困るような要望もしなかったように思う。演出のなかで一つあげるのなら、私は最後の円山公園でのシーンは、野外コンサート会場から出たり入ったりする必要はなかったと思う。「珠子」が微かな希望を胸に「三浦」が来るのを待つのだが、杉浦と話すうちに一度現実の思いにもどる。しかしどうしても待ちたいと言う強い思いから幻の「三浦」が現れるのだが、その展開は欲張り過ぎだったと思う。どうしても待ちたい「珠子」を置いて杉浦が会場を去り、一人で座る「珠子」の隣に赤いヤッケの男性が並んで座っている場面だけで終わって欲しかったと思う。
【追伸】
一時間ドラマで、しかも一話撮りの場合、撮影スケジュールの関係で、どうしても「こなして」撮ってしまう場合が多い。監督が脚本を見て、特別な思い入れを持ったり、本に訂正を加えたりする時間がないからだ。だから、先にも書いたように「ストレス」なくドラマを撮れる実力が必要となってくる。これはなかなか難しいことである。詳しい定義や意味合いの説明は避けておくが、石川監督は「職業監督」だけにはなりたくないと言っていた。与えられた本をパッパとこなすだけの監督にはなりたくないと言うことだ。しかし、このような作品は第一に「こなして」撮る必要がある。契約監督は、このリズムに乗ってしまうと映画を撮る道が絶たれてしまう可能性が高い。だから、このような作品を撮る時、「こなし」ながらも監督の色を出さなくてはならない。厳しいスケジュールの中で、どこかに思い入れを入れてアピールしなければならないのだ。契約監督が劇場作品に抜擢される為には、スタッフからの信頼と、製作サイドが認める「色」を追求していく努力が社員監督よりも要求されるのだと思う。石川さんが「がんばろうな」と私の肩を叩いたことがあった。私はがんばれなかったが、石川監督にはぜひ頑張ってほしい。


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